いわゆる慰安婦問題について

*読みやすくするために少し手直ししました(平成30年1月11日)

平成27年もまた激動の一年でしたが、年の暮れにとてもインパクトのある出来事がありましたので少しコメントさせていただきましょう。

12月28日、岸田文雄外相が韓国を訪問し、いわゆる慰安婦問題について外相級会談を行いました。記者発表されたその内容については下記外務省サイトにて確認することができます。

平成27年12月28日_日韓外相会談
(参考)河野談話

さて、以下の文章はみなさんが外務省サイトで発表内容に目を通しているという前提で書かせていただきます。
会談の発表のあった29日、巷では日本の外交的敗北のようなことを言う人がいましたが私は決してそうではないと考えます。しかしこの件に関して、これ以上韓国に譲歩することが感情的に受け入れられないという方がいらっしゃるのは大変よく分かる話ではあります。

いわゆる慰安婦問題について、日本政府が背負っているものについて確認しておきましょう。
まずは言わずと知れた河野談話です。これにより慰安婦の存在と、軍の関与を認めて謝罪しています。同談話作成過程について問題があったのではないかと検証が行われましたが、だからといって談話の存在がどうにかなったわけではありません。関連する事業として、日本政府のアジア女性基金による償い事業が実施されています。

(そもそも論としては、日韓基本条約(1965年)により両国間のすべての問題が解決されています。)

上記取り組みを受けて、これ以上慰安婦問題にはタッチしないと約束していたにもかかわらず、何度も蒸し返す韓国。テレビの言葉を借りるならばゴールポストを動かされ続けては、日本側としては困惑せざるを得ません。お付き合いする日本側も人が良すぎるような気がします。戦前からそうだったみたいですけど。

 

どうして本問題がこんなにややこしくなっているのか。ずばり言わせていただくと、『慰安婦問題が対日外交カードとして有効であり続けていたから』であります。

したがって、この外交カードを無効化するために、3つの条件を整える必要がありました。

①国内において『いわゆる慰安婦問題』についてそれなりの理解が浸透すること。
理解の程度は様々あろうかと思われますが、安倍政権のやろうとしていること、言おうとしていることについて国民から理解の得られる状況が必要でした。河野談話の検証や池上彰さんの朝日批判、その流れからの朝日新聞による吉田証言の誤報認定が大きな転換点となりました。これらにより、本問題について国内的には安倍政権の意向が通る環境が整ったと考えます。

②アメリカの意向。
この会談にはアメリカが一枚噛んでいると思われます。同様の見方をする人は多いです。政府関係者も『最終的には、日韓首脳会談の場にアメリカも加わって、きちっと確認する形になるだろう』と言っているとのこと。(その他参考:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20151228-00000001-asahi-pol)リンク切れ
これだけでも十分な気もするのですが、もう少し自分の手で書いてみる。
まずは対中問題。最近中国と韓国が足並みを揃え、記憶遺産などを利用して日本に歴史攻撃を仕掛けています。国際社会の対日イメージを悪化させて、日本の動きを抑えることが目的と考えられています。歴史について対日カードを切るのはアメリカもやるのですが、いまの国際情勢の中で、慰安婦問題で韓国が中国と共同歩調をとるのはさすがにアメリカも許せなかったようです。アメリカの国益的には、韓国は西側陣営寄りでなくてはならないのです。マイケル・ピルズベリーの著書「China2049」を参考までに読んでください、現在アメリカの対中政策が転換しつつあります。

余談ですが、日本と韓国の関係性の歴史的経緯にはアメリカが一枚噛んでいます。アメリカの支持を得て韓国の初代大統領になった李承晩。そんな彼がはじめたのが、李承晩ラインの設定、それに続く竹島の不法占拠や反日教育でした。隣近所の国家間にケンカの種を残しておく。適宜そのケンカに介入することで両国をコントロールし、自国に有利な形を維持するという手法です。間接統治の基本ですね。

③最後に国際社会における本問題についての認識の変化。
この慰安婦問題の国際社会での認知度は、慰安婦像や国連のクマラスワミ・マクドゥーガル報告書、告げ口外交、朝日新聞誤報事件などによって徐々に向上していました。一方で、河野談話以後のことなので、日本がこの問題についてどういう態度をとってきたかということについて、十分な理解がないままに認知度が上がることは好ましいことではありませんでした。
しかしこの状況は逆手にとることもできたわけです。本会談で状況が変わりました。

 

さて、上記3点を踏まえつつ会談の成果を見てみましょう。

(1)-ア 慰安婦問題は,当時の軍の関与の下に,多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた問題であり,かかる観点から,日本政府は責任を痛感している。
 安倍内閣総理大臣は,日本国の内閣総理大臣として改めて,慰安婦として数多の苦痛を経験され,心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての方々に対し,心からおわびと反省の気持ちを表明する。

これは河野談話の内容を超えるものではありません。

しかし一方で、先人を辱めるようなことをするな、会談の内容は受け入れられないし、そもそも河野談話を否定せよというご意見もあります。

言いたいことは痛いほどよくわかります。しかし、このような意見を持つ保守の方と、国際社会のオピニオンリーダーとは、問題の捉え方、問題提起のなされ方が異なっていると考えます。保守の方々は、吉田証言も誤報であったし、日本国家として慰安婦を強制的に徴用した事実はないから慰安婦問題はけしからんと言うわけですが、国際社会のオピニオンリーダーの方々は、彼らの知識と理解が浅いために、日本の軍隊(国家)がかかわった慰安所があって、中には業者に騙された人や嫌な思いをした人もいた、ああ可哀想だね問題だね。と捉えているわけです。

以上を踏また上であの官僚作文(河野談話)をよく読んでみてください。一般的な慰安婦について言及した内容であることがわかります。つまり河野談話を否定すれば、慰安婦の存在そのものを否定したと世界に受け取られ報道されてしまう可能性が高いのです。

一連の出来事を反省し次に活かすべき点があるとすれば、ちゃんとした国家観、歴史観を持った人を政治家に選びましょうということですね。

西内に言われるまでもなく構造は理解しているよ、その上で憤っているんだということであれば、それは確かに義憤ですね。しかしこの枠組を変えるためにはもう何十年か努力を重ねる必要があるでしょう。憤りをグッと飲み込んで、国際世論を味方につけながら、いまそこにある危機(隣国とか)に、冷徹なリアリズムで挑まなければならないのもまた政治の役目です。

イ 日本政府は,これまでも本問題に真摯に取り組んできたところ,その経験に立って,今般,日本政府の予算により,全ての元慰安婦の方々の心の傷を癒やす措置を講じる。具体的には,韓国政府が,元慰安婦の方々の支援を目的とした財団を設立し,これに日本政府の予算で資金を一括で拠出し,日韓両政府が協力し,全ての元慰安婦の方々の名誉と尊厳の回復,心の傷の癒やしのための事業を行うこととする。

10億円が高いだの安いだのといって議論が紛糾していますが、中韓の共同歩調の一角が崩せるとすれば安い買い物だと考えます。

 日本政府は上記を表明するとともに,上記(イ)の措置を着実に実施するとの前提で,今回の発表により,この問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する。
 あわせて,日本政府は,韓国政府と共に,今後,国連等国際社会において,本問題について互いに非難・批判することは控える。

さて、ここで皆さんが気にされるのは、韓国側の声明がその内容通りに実行されるかどうかという点であろうと思う。しかし、よく考えていただきたい。挺対協はその存在意義を失わないためにも、個々の人の事情は別にして全面的に同意することはできない。韓国国民世論としても、従来よりも後退した内容なだけに承服いたしかねるだろうと思う。
では会談の内容を反故にしたらどうなるか?前述の3点を踏まえて考えてみる。
まず日本に対してはマイナスの効果しかない。しかも安倍政権である限り、これ以上日本が譲歩することはありえないと考えられる。
2点目のアメリカとの関係性でいくと、中国と生きていくことを選べばそういう選択肢もあるかもしれない。しかしそれはあまり賢明な判断とは思えない。
3点目について、国際社会的には日本はやるべきことをやったという話になる。(まあ、前にもやってることなんだけどね・・・)そうすると約束の反故は韓国の国際社会での地位をさらに貶める結果を招く。

こういうのを前門の虎後門の狼というのだろうか。韓国がどのような決断をしようとも大変な思いをすることに違いはない。身から出た錆といえばそれまでだが、ベストでなくてもベター、いや、ワース程度にとどまる決断をしてもらいたいものである。

*戦争における慰安婦の存在そのものや、騙されて連れて行かれて大変な思いをした人がいたこと否定する意図はございません。誤解ありませんように。

記事
Ⅰ新年
Ⅱケント・ギルバートx伊藤哲夫講演概要