オーストリア視察-その5

視察も峠を越えてその5まで到着することができました。もっとシンプルにすれば楽だったのでしょうがこれも性分ですね。

[9月18日]
さて、相変わらず時差ボケで朝は早いです。夜明け前には起きだしてゴソゴソはじめます。ひと通りニュースなどをネットで確認すると寝たり起きたりを繰り返して朝食へ。どこへいっても代わり映えしないビュッフェスタイル。日本の田舎の民宿との違いについて考えてみると、wifi環境があることとクレジットカードが使えること、この2つの差は大きいように思えます。まあ田舎来てまでネットしなさんなと言う考え方もあるかもしれませんね。

さて、時間になりましたので昨日と同じ運転手さんのジャンボハイヤーにお世話になります。一行は2時間半ほどかけてウィーンの真西、ニーダーエスターライヒ州メルク郡イップス・アン・デア・ドナウにあるStora Enso株式会社を訪問しました。同社は世界23カ国に展開し、CLT以外にも製紙やペレットなど様々な事業を手がけているそうでうs.
同社は基本撮影禁止ということで、残念ながらレクの時の写真しかありません。
IMG_1799さて、このたびStora Ensoを代表して対応くださったのはヨハネス・ウィッペル氏とのユーゲン・バウアー氏。ヴィッペル氏は国際取引が担当で日本にも何度か足を運んでいるとのことでした。

テーマがCLTだけあって、みなさんこれでもかと言わんばかりに質問攻めです。同社の製材部門の売上は1億500万ユーロ、関連社員は3,000名とのことでした。東京にも事務所を構え、CLTについては本年度中に日本農林規格(Japanese Agricultural Standard)を取得する予定。うー、大豊製材もうかうかしてられませんね。彼らも虎視眈々と日本市場を狙っています。カタログみればスペックについて説明があるわけですが、彼らの言葉でCLTの魅力について語っていただきました。

  • 工期が短い(2F建ての家だと4人で2日)
  • コンクリート構造物より軽い
  • 耐震性・防火性が高い
  • 健康や快適性
  • サステイナビリティ

パネルを組み合わせるだけなので工期が短い、したがってCLTのやや高めの材料コストも吸収されて十分競争できるとの言い分でした。耐震性も十分兼ね備えているし、彼らのいうところの防火性も90-120分経過しないと構造耐久力上支障が生じないとのこと。また医学的に健康に良い影響を与えることが分かってる的なことと、木材だから持続可能性に配慮されていると言っておりました。ついでに日本にはどのような形で進出するのか?工場なども日本国内に用意するのかと尋ねたところ、あくまで製品輸出とのこと。中層建築物をターゲットにパターンオーダーで販売するそうです。部品の種類をしぼることで製造コストを下げて輸送コスト追加分を吸収するとういことですね。

さて本当にバラ色かね?そのような疑問をぬぐいきれなかった私は、帰国後日本木造住宅産業協会の某氏や大豊CLTの技術関係でお手伝いされている日本なんとか株式会社の方に根掘り葉掘り聞いてみた。まず工期で多少コストが圧縮されようとも、高い材料代は簡単に吸収されない可能性があるとのこと、そもそもパネル工法はCLTの専売特許というわけでもない。そしてJASを獲得したとしても、その他にクリアすべき法律の壁があるということ。日本では防火性とは別に準耐火性つまり準耐火建築物として満たすべき要件がある-(壁、床、軒裏で延焼の恐れのある部分は、火災に犯されても45分間は、屋内に面する温度が可燃物燃焼温度以上に上昇しない性能に適合すること。(延焼の恐れのある部分以外は30分間))。燃えちゃダメなんて日本恐るべし。そんなこんなで他の建築資材と同条件で利用できるようになるにはもう少し時間がかかりそうだ。それから国内輸送コストが馬鹿にならないということ、これには大豊もこたえますね。驚いたことには、アメリカやEUからの搬送コストが東京都心から50kmと同等だそうです。

そしてバウアー氏は、EU圏でCLTが受け入れら易い理由として、人体への影響やサステイナビリティをあげていた。EUでは木造家屋が人体、とくに健康や精神与える影響についての研究が比較的に盛んに行われており、CLTの持つ付加価値として認知されているそうだ。しかし、この分野は日本では梼原町などで研究がはじまったばかりであるし、良い結果が出たとしてもコンセンサスの形成にはまだ乗り越えなければならない障壁が多い。そしてサステイナビリティについても、日本では価格訴求力に全面降伏を強いられそうな気がする。となるとオーソドックスに地産地消路線なのだろうけれど、県内に中層構造物の民需を期待するのはなかなか厳しいものを感じます。そうなるとまずは公共建築物での率先利用でしょうか。

さて、質疑を終えた一行は工場見学を行いました。写真がないのが残念です。ほとんどの作業がオートメーション化されていて見る者を圧倒しますね。データの指示に従って、機械がカスタム加工もあっという間に仕上げてしまいます。

これでもCLT
これでもCLT

さて、一行は工場を出ると実際のCLTを用いた建築物を見学しました。外壁は断熱材や外装に覆われていて直接拝むことはできません。木材部分を露出させるさせないも自由に判断いただけるし、すでに紫外線処理をしてあるので露出させたとしても変色の心配はないと言っていました。中に入るときちんと木目が確認できます。木の空間は心が落ち着く上に温みがありますね。

ひと通り見学を済ませると、ドナウ川沿いのレストランにて昼食を済ませました。

食事後はイップスの外れの小水力発電所を見学に。国境付近から1時間半もかけて説明に駆けつけてくださったのは、HYDROENERGYのピーター・フランカーさん。すぐにでもご挨拶をすませて本題に入りたいところですがそこで私達を襲ったのは生理現象。本人を目前に控えて、トイレを探して街を徘徊することになります。

間一髪危機を脱した一行は、ピーターさんのもとへ向かいます。そして彼の説明がはじまりました。HYDROENERGYでは、主に15kW-15MWの水力発電設備を生産・販売・施工しています。昔はもっと小型の発電設備も取り扱っていたけれど現在は切り上げたとのことでした。本施設には1MWのカプラタービンと呼ばれるものが設置されており、水車のほかにトランスミッション、ジェネレーターで構成されています。発電機の高さは3.90m、流量は30.0㎥/sec、回転速度は107rpm、水車の直径は2740mm。完全自動化がなされており、普段の管理は会社からリモートで行われます。変わった工夫が凝らしてあって、発電時に発生する熱を回収して隣接するアパートの温水や暖房に供しているとのこと。導入費用は70万ユーロ、売電価格は5-7セント/kW、年間に4-7日メンテで停止。同発電所は管理こそHYDROENERGYですが、所有はワイトホーフェン市に帰属します。国から20年間の河川の利用権を得て設置したそうですが、一般に河川利用は申請から5-10年たたないと許可が下りないそうです。

小水力発電の視察を終えると、リンツ目指して移動をします。一行が車を降りたのはアムシュテッテン駅。そこからQBBなる国鉄の快速電車に乗ってリンツ駅を目指します。団体割引乗車券を購入すると1枚のチケットが渡されました。オーストリアでは1枚のチケットが5人の乗車許可証となるようです、席離れて座れませんね。30-40分も揺られると視察最後の訪問地、リンツに到着しました。私はここの街並みが好きなので、翌朝にでも市内観光を兼ねて散歩をしようと思ったのでした。

今日もくたくたです。余談になりますがオーストリアはじめEU圏のお店は、一部の飲食店等を除き19時には閉店するようです。法律なんかもあるのかな、すくなくとも某宗教絡みです。どのお店もショーウインドウはライトアップが原則ですが、その心は治安?それとも景観?いずれにせよ環境に重きを置いている国々らしからぬお話ですね。